投資信託あれこれ

ファンドの購入時手数料を廃止すれば、販社と運用会社の力関係が変わり、投資信託はより健全な商品となります

2023年4月29日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

今月、1本のファンドが新規設定されました。

世界水資源関連株式ファンド』です。

委託会社(運用会社)は
大和アセットマネジメント株式会社。

 

ファンドの詳細を見ると、
この投資信託の『販売会社』大和証券、となっています。

 

一社だけです。

 

 

 

 

大和証券グループ本社が頂(いただき)にあるとイメージしてみてください。

その傘下の関連会社として、
大和証券や大和アセットマネジメントが存在しています。

 

したがって、
上記ファンドは、

 

グループ内の運用会社で組成して、
グループ内の販売会社(大和証券)のみで売る。
というビジネスモデルです。

 

 

上記『パターン』は残念ながら
投資信託の製造・流通形態ではよくあること・・。

 

 

野村アセットマネジメント(運用会社)で
作ったものを、
野村證券(販売会社)のみで売っているケース。

 

 

銀行系でも、

三井住友信託銀行(販社)が、
三井住友トラスト・アセットマネジメント
(運用会社)の運用するファンドを販売するなど。

 

 

 

 

投資信託という商品では、

【タテ割り系列の】
製造・流通・販売ルートが根強く存在します。

 

 

なんでそんな事をするかって?

 

そのほうが
儲かるためです。

 

【タテ割り系列の流通内で】ビジネスを行ったほうが、

 

購入時手数料と、
運用管理費用のほとんどが
『グループ内』に還流して、
グループとしての利益が大きくなります。

 

 

言い方を換えれば?

それだけ消費者(投資家)の利益が犠牲になってきたということ。

 

 

 

このような
硬直的な、
製造・流通・販売のしかたが

ファンド業界の自由な競争、
より弾力的なコスト体系の実現を妨げているとも云えます。

 

 

投資信託という商品において、
もっとも重要なプレーヤーは?

ファンドの製造を担う
委託会社(運用会社)です。

 

 

どんな産業でも同じですが、

 

よりよい商品、
革新的なプロダクトを作れるかどうかが、その業界の浮沈を握っているはず。

 

 

ところが、
投資信託の製造・流通・販売過程においては、

ファンドの販売を担う、
証券会社、銀行、生損保会社のパワーが絶大なのです。

 

 

 

 

証券・銀行・保険会社(販社)から見れば、
ファンドの運用を担う『運用会社』は

ちょっと格下の、
子会社的な存在であり、

グループ内で長らく
傍流的な扱いを受けてきました。

 

・・今でもそうです。

 

 

4月26日の日経新聞記事から拾ってみましょう。

「運用会社を抜本改革」岸田首相が指示 資産所得倍増へ

 

上記記事内に、
次のような一文が記されています。

 

金融庁が4月にまとめたリポートでは、

グループ人事を優先して
運用経験が全くない役員を運用会社の経営トップにする事例もあるという。

 

??

これって?

 

銀行・証券・保険会社の本体から見れば、

系列の『運用会社』の取締役に付くことは、人事異動の一環に過ぎない。という側面があります。

 

 

 

証券会社を例に挙げると分かりやすいでしょう。

 

たとえば大和証券本体から見ると、
運用会社である大和アセットマネジメントは、

意識の中では
「子会社的」な扱いが色濃く残っています。

 

 

 

 

 

なぜなら、
日本の投資信託の歴史を紐解くと、

当初、
証券会社そのものが
ファンドの運用を行ってきたためです。

 

 

(ちょっと信じられないかもしれませんが、
1951年、
大和證券そのものが
投資信託運用会社として登録しているのです。)

 

 

その後、大和証券の子会社として
大和証券投資信託委託会社(運用会社)が作られたり、
野村證券の子会社として、
野村證券投資信託委託(運用会社)が作られたりしました。

 

 

このような歴史的経緯は
銀行でも保険会社でも同じです。

 

 

投資信託の販社である
銀行・証券・保険各社は、

ファンド製造元の運用会社を意識のうえで「下」に見てきたため、投資家のために、より優れたプロダクトを作ろうというより、

 

自分たち(販売会社)が売りやすい、
利益を上げやすい商品を、

子会社的な目で見ていた運用会社に作らせてきた・・という歴史的事実があります。

 

 

これが
(残念ながら)
70年超の、日本の投資信託の実態なのです。

 

 

 

 

再び上述の日経新聞記事に戻ります。

 

岸田文雄首相は26日の経済財政諮問会議で、「資産運用業等を抜本的に改革することが重要だ」として、資産運用会社の運用能力を強化するよう金融庁に指示した。

 

日本の運用会社は中長期の資産形成に向かない金融商品を多く作るなど課題が多く、個人の「貯蓄から投資」を促すには、運用会社の改善が必要と判断した。

 

 

お上(かみ)から、

「資産運用業等を抜本的に改革することが重要だ」などと指摘されるのは、甚だ恥ずかしいことです。

 

が、これを機に
果たして投資信託の運用業界は変わるのでしょうか?

 

 

わたしはもっと単純に、
官や監督官庁の圧力ではなく、

監督官庁自体が
投資信託の「購入時手数料」を廃止すればよいと思っています。

 

 

 

 

報酬の面でいえばシンプルに、

購入時手数料の『数字』のほうが、
運用管理費用の『数字』より大きい・・。

 

【購入時手数料】という
巨大なアメがぶら下がっているために、

(既存のファンドの)資産を育てるよりも、
新しいファンドを売ることを、

他ならぬ販社である、
銀行、証券会社、保険会社が優先してきたのです。

 

 

すべては
【販売会社】 > 【運用会社】

という『力関係』が存在するためです。

 

 

 

 

【購入時手数料】を廃止すれば、

ファンドを売っただけでは
「収入」が入ってこなくなりますから、

 

ひとつのファンドに
どうやってたくさんお金を集め、
どうやったら投資家に長く保有してもらえるか・・、

そこに(自然と)知恵を絞るようになります。

 

収益源は? 
購入時手数料(なし)
運用管理費用(けいぞく的報酬のみ)

 

 

結果として、
『新発売』のファンド数も劇的に減ることでしょう。

 

ファンドの提供側も、
ファンドの購入側も、

 

投資信託の『成績』そのもの、
投資信託の『中身』そのものに、より注目するようになるはず。

 

⇒ そうすれば、
『販売会社』と『運用会社』の
【力関係】も変わってくるでしょう。

 

なにせ、ファンドを作り、
実際に運用するのは『運用会社』なのですから・・。

 

【販売会社】 < 【運用会社】

 

 

 

 

運用会社の力が強くなれば、

自然と
【タテ割り系列の】
製造・流通・販売ルートは消滅していくでしょう。

 

なぜなら、
優れた投資信託を製造する運用会社は

系列を超えて、なるだけたくさんの「販売会社」に自分たちの商品を売って欲しいと考えるためです。

 

金融庁さん、
ファンドの購入時手数料を『廃止』しましょう!

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