インフレ下における消費者の『二極行動』とは?(日々の出費を倹約しながら、高額な買い物もしてしまう・・)
2023年3月10日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
物価上昇(インフレ)はときに冷酷です。
日本でも起こり得ることとしてお読みいただければ幸いです。
あなたは昨日お風呂に入りました。
湯船に浸かりながら、
シャンプーが入ったボトルをよくよく見てみると、
あれ?
微妙にサイズが小さくなってない?
と気づきます。
これなど、
「インフレ」が常態化した暮らしのひとコマでしょう。
あるいは、
ふだんと支出状況が違わないのに、
クレジットカードの『請求額』が上がってきている・・。
消費者は、
毎日毎日「買うか」「買わないか」「何を買うか?」という細々とした決断を、それこそ何十と繰り返す必要に迫られます。
「タマゴ」から「マニキュア」から「ディズニープラスの会費」に至るまで。
先月より、昨年よりは『支出額』が減ることはない・・
家計を第一に直撃しているのが「家賃」でしょう。
以下動画では、英国ロンドンの家賃の高騰ぶりを伝えています。
あくまで一例ですが、
『ベッドルーム2のフラット』(ロンドン市内)
パンデミック前 | 2022年12月 |
1900ポンド/月 | 2400ポンド/月 |
ナント26%以上の値上がりです。
さらに、物価上昇という現象には【粘着性】があります。
たとえば、
今年4歳になる長女さんには食べさせていた、ちょっと高級な離乳食を、
今年生まれた長男さんにはもう食べさせられない・・
(=離乳食のグレードを落とさざるを得ない)
そんなことも起こります。
「量」を減らしたり、
個々の消費財の「クオリティー」を落としたりしないと、赤字家計にまっしぐらになるためです。
+6%、+7%、+5%、+6%のように毎年インフレが進むと、
『お金を置いておくこと』は、
即お金の価値を減らすことになってしまいます。
今の日本ではまだ分かりにくいかもしれませんが、
アレもコレも、
買っておかないと、
来年はもっと「値段が高くなるよ!」という焦りが生まれるのです。
これが「インフレ経済」の本質です。
インフレが続くと、消費が落ち込むというのはちょっと違うわけです。
『お金を置いておく』と、
お金の価値が下がっていくので、
ベクトルとしてはお金を使う(用いる)の方向に向かいます。
「デフレ型経済」の本質とは?
『お金を置いておく』と、
かえってお金の価値が増します。
つまり、消費しなくなるのはむしろ「デフレ経済」のほうと云えます。
〇 インフレ経済は、お金は用いるほうにベクトルが向く。
〇 デフレ経済は、お金は置いておくほうにベクトルが向く。
マイルドなインフレ(概ね年率3%程度まで)下では、経済は総じて順調に推移し、株価も上昇していくのです。
今の問題は何かというと、
5%、6%程度(あるいはそれ以上)の中位のインフレを果たして『制御』できるのか?という疑心暗鬼な空気そのものです。
毎年インフレが進むと、『お金をそこに置くこと』はお金の価値を減らすことにつながります。と述べましたが、
今度は少し目を転じて、
たとえば、
そこそこ『高額なモノ』を想起してみましょう。
中位のインフレが進むことによって、
高額なモノやコトは
たちまち「価格」が更新されてしまいます。
こまごました消費財の購入には、時間とエネルギーを用いてなんとか倹約しようとするのに、高価な買い物は、
(まるで別口の「脳」を持っているように)
すばやく(かつ)
あっけなく行ってしまう自分がいるかもしれません。
消費者の『二極行動』です。
日々の支出については
さまざまなカタチで倹約にトライし、
なんとか家計の主導権をキープしようとしますが、心が折れてしまうこともあります。
端的にいって、
この3年間の物価上昇率に、
賃金の上昇率が追いついていない人が多数派なのです。
(実際、欧米では高級品の消費動向は好調です)
意外に思われるかもしれませんが、インフレーションが消費を活気づける側面もあるのですね。
そして何より、
中位の物価上昇がこの先も続けば『賃上げ要求』が本格化します。
私たちの賃金もモノの値段のひとつですから、更なる賃金上昇が(さらなる)インフレ期待を醸成するわけです。
物価上昇を抑えるのは一筋縄ではいきません・・。
1970年代のGreat Inflation(グレート・インフレーション)についても、こちらで書かせていただきました。
カテゴリ:経済よもやま話