経済よもやま話

書籍『人口大逆転』~高齢化、インフレの再来、不平等の縮小~

2023年8月2日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

今日ご紹介するのは、
書籍人口大逆転 ~高齢化、インフレの再来、不平等の縮小~です。

 

 

著者は
チャールズ・グッドハート氏とマノジ・プラダン氏。

 

本著は独自の視点に基づいた
壮大な『未来予想本』です。

 

 

ズバリ、
「高齢化が進むことでインフレが再来し、国内での不平等は縮小する」と喝破します。

 

キーワードは、
『賃金上昇』と『非グローバル化』。

 

 

 

 

未来を見通すためには、
過去を理解することが必須ですが、

 

本著では
この30年超の『デフレ』の主因を、
グローバル化(中国と旧社会主義国の世界市場への参入)に見出します。

 

特に中国の影響を重視しており、
『安い労働力』がこれほど大量に
自由市場に供給された例は世界史に類を見ません。

 

 

中国と旧社会主義国の世界市場への参入により、
労働力が急増したため、
先進国の労働市場でも
労働者の交渉力が弱まり、
賃金の『下方圧力』が強まったと分析しています。

 

 

これは企業側から見れば、

供給源(労働力)が急増することに他ならず、
労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)が低下していったことを示します。

 

 

事実この30年、
『物価』は、
先進各国の中央銀行のインフレ目標である『年2%』を下回り続けました。

※コロナ前までのイメージ。

 

 

物価上昇が乏しいと金利は低いままです。

 

稀に見る低金利の継続は、
株式、住宅価格を押し上げ、

 

「持つ者」と「持たざる者」の格差を押し広げることになりました。

 

 

本書では
労働者の実質的な賃金下落を重視しており、
これが『デフレ圧力』につながったとします。

(また、労働者の賃金下落が「ポピュリズム」の伸長を招いたと分析しています。)

 

 

 

 

さて、ここまでは
未来を見通すための「過去のお話」です。

 

 

 

本書が示す、
長期スパンでの『未来展望』を覗いてみましょう。

 

今後は高齢者が急増し、労働人口比率は急減する。
希少な労働者は交渉力を取り戻し、
『賃金上昇』の圧力となり、インフレをもたらす。

 

 

世界中で「高齢化」が進むのは、
抗えない事実でしょう。

 

それに伴い、
全人口に占める『労働人口比率』が低下し、
労働者の「労力」の価値が相対的に上昇する・・

 

 

つまり、
過去30年超とは逆に、

 

労働者の供給が限定されることで、
賃金上昇が起こり、
これが『インフレ圧力』につながると分析しているのです。

 

(本書では経済的なトレンドについてはあまり触れていません。
重視するのはマクロの『人口動態』です。)

 

 

 

 

上記、
「労働者の供給が限定される」について追記してみます。

一国の中で、
仕事に携わらない高齢者の比率が増す事は分かりやすいでしょう。

 

では『グローバル』に見た場合には?

 

ここでもカギを握るのは中国です。
中国の労働人口はすでに減少し始めています。

 

 

また、大国『中国』の出現が、
米中対立を醸成し、
皮肉にもグローバル経済の「ブロック化」を招いている側面があります。
(そしてロシアによるウクライナ侵攻が
このトレンドを強める結果になっています。)

 

 

これまで 経済のグローバル化 労働力供給 ↑   デフレ傾向
これから 経済の非グローバル化 労働力供給 ↓(高齢化進展)   インフレ傾向

 

 

 

 

 

ここまで読まれて、
あなたは「あれ?」と疑問に思われるかもしれません。

 

 

世界のどの国よりも、
先行して「高齢化」が進んだ日本で、
なぜ(今まで)インフレが起こらなかったのか?という疑問です。

 

 

本書『人口大逆転』では、
まるまる一章を割いてその疑問に答えています。

 

日本では1990年代に「円高」が進み、
製造業が海外に拠点を移したため、
企業は豊富な労働力を海外で得ることが出来ました。

 

つまり、
(日本国内では高齢化が進展したが、)
世界的なデフレの潮流(特に安い労働力)を、
国内に輸入するのと同等の効果が得られたわけです。

 

 

しかし今後は異なります。

日本は恒常的な「円安」体質になりつつあります。

中国や東南アジアの成熟化が起こり、
労働コストが日本とあまり変わらなくなりました。

 

結果、生産拠点の相当部分が日本に回帰することになり、労働供給の「増減」が、純粋に国内要因に近づくわけです。

 

 

 

 

加えて、産業構造の変化により、
日本は製造業(貿易)で稼ぐスタイルから、
サービス業が主軸の経済に移行しています。

 

つまり、
労働力の代替が行いにくくなっているわけです。

 

 

超高齢化のため、
労働供給が細り、
人手不足が恒常化するというのは、

今、まさに、日本の日常光景になってはいないでしょうか。

 

 

賃金の上昇から『インフレ』が続くという経済の姿は、あなたにとってもしかすると「?」の部分があるかもしれません。

しかしそれは現実に起こり得る『未来予想図』なのだとわたしは実感した次第です。

 

(なお、本書最大の課題は、
デフレ要因であるはずの社会のデジタル化、AI化の影響を、
本編にて十分に描き切れていないところにあると考えます。)

 

 

学術書ゆえ、
冗長な部分がありますが、思考の仕方を鍛えられる部分が大いにあります。
「読み倒していく・・」という表現がぴったりの本に久しぶりに出会いました。

 

カテゴリ:経済よもやま話

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