その他・雑記

映画『エデンの東』で描かれていた大豆先物について

2023年2月26日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

わたしがジェームズ・ディーンの映画
『エデンの東』を観たのは高校2年の時でした。

 

 

 

 

ジェームズ・ディーンは
若者に共通の「悩み」を等身大で演じていて、
何度この映画を見返しても、彼の演技には瑞々しさを感じます。

 

 

 

「エデンの東」の舞台は
20世紀初頭のカリフォルニア州、サリナスという町です。

 

この映画は聖書の挿話を下敷きにしており、

厳格な父親と
善良な長男、素行の悪い次男という「関係」から成り立ちます。

 

裕福な農場主アダム(父親)は、
優等生タイプの長男のほうを可愛がっていました。

素行の悪い次男のキャル(ジェームズ・ディーン)には、どう接してよいか分かりません。

 

    次男                    長男

 

 

 

映画の場面場面を観ても、
アダム(父親)が疑いの目でキャルを見る様子が伝わってきます。

 

 

いっぽうのキャルは、
アダムに反抗しつつも
父の愛に飢えており、

父親に認めて欲しい姿が何度も垣間見られます。
(このようなアンビバレントな感情を、ジェームズ・ディーンは上手く演じていました。)

 

 

この映画の見どころは
父と息子の「仕事観」の違いです。

 

アダムは当時勃興しつつあった『鉄道』を用いて、都市に住む人々に新鮮な野菜を届ける「新しいビジネス」を思い付きました。

 

 

『鉄道野菜』によって、
サリナスの野菜農家には安定的な供給先が出来、
また都会に住む生活者には
新鮮な野菜が買えるメリットが生じます。

 

(上記は20世紀初めの話ですから、
立派なベンチャービジネスと云えるでしょう)

 

 

 

 

 

息子のキャル(ジェームズ・ディーン)は父親のアイデアに共鳴し、兄とともに献身的に父の手助けをします。

 

 

しかし結果として、
アダムの挑戦は
失敗に終わってしまいます。

 

 

アダムはこの時、
事が上手く運ばなかったにも関わらず、晴れやかな表情を浮かべ、

 

「わたしは上手くいかなかったが、あとに続く誰かが必ずやり遂げてくれるはずだ」と、どこか希望を込めて言います。

 

 

 

 

 

キャルは父の落胆を
我がことのように感じていました。

 

そして自分なりの考えで、
父親が失った資金を取り戻そうとします。
キャルなりの仕事(ビジネス)に着手したのです。

それが大豆の『先物取引』でした。

 

 

映画を観てもらえば分かるのですが、
父子の壮大なドラマの中に、
このような金融取引の挿話が挟まれても、何ら違和感は感じられません。

 

キャルはこう考えました。

 

アメリカが『第1次世界大戦』に参戦すれば、大豆の値段が高くなるはずだ。それを見越して、大豆が収穫される前に農家と契約をして、安い値段で大豆を買い付けようと。

 

 

キャルの予想はまんまと当たり、彼は大金を手にしました。

 

 

 

 

 

さあ、ここからが話の本題です。

 

 

父親とは違う形にせよ、
キャルは彼なりのビジネスを見つけ、それは上手く運びます。
彼は金銭面で父の役に立てることを、心から嬉しく思ったのです。

 

ところが、
アダムの反応は意外なものでした。

 

キャルからお金の束を受け取った父は、落胆の表情を浮かべます。
彼はキャルの仕事(ビジネス)を認めないだけでなく、息子を𠮟責するのです。

 

 

 

 

・人がたくさん死んでいる戦争で儲けるなんてけしからん。
・お前は本来農民が手にするべき利益を横取りしたのではないか?
・このお金は農家の皆さんに返しなさい。

 

キャルは父親の叱責に反発します。

 

「父さん、これは法律に背くことじゃない。
ちゃんとしたビジネスなんだ。仕事をしてお金を得て何が悪いの?」

 

これがエデンの東における、
父と子の『仕事観』の違いです。

 

 

キャルが行った先物取引(Futures)を、

私たち自身もどこかで
「まっとうなビジネスではないのでは・・」と感じている部分があるかもしれません。

 

それはなぜでしょう?

 

 

株式にしろ、債券にしろ、
商品(コモディティ)にしろ、金利にしろ、為替にしろ、

人並み以上のリスクテイクをし、
他者に先んじて
投機的に資金を投じる「投資主体」が存在します。

 

 

時に『先物』を用い、
また時に『オプション取引』を用いて、大きな資金を動かすわけです。

彼ら/彼女らは、
資産市場の先鞭役です。

まさに「リスクテイカー」なのです。

 

 

 

 

資産市場においては、
リスクを厭わない「投機的資金」こそが、
特定の投資対象が上がり過ぎた状況、
あるいは下がり過ぎた状況を『是正』する役割を担っています。

 

 

わたし自身はこのような投機的行動は取りませんが、しかし、投機資金が市場で重要な役割を担っている事を、否定する者ではありません。

 

 

次に、
キャルに背中を向けて、あえてアダムの立場に立つと、

 

彼は苦渋の表情を浮かべながら、息子のお金を受け取ることを拒否するわけですが、その頑な心情も、分からないわけではありません。

 

私たちは、
生まれ育った時代背景の中で
身に付ける「倫理観」がそれぞれ異なるのです。

 

 

そのため、
父と子で、母と娘で
『仕事観』に違いが生じるのは(ある意味)当然でしょう。

 

※ですから、
仮にあなたの仕事を親が認めてくれなくても、
落ち込む必要は全くありません!

 

 

 

 

 

先述した「先物取引」などは、
対象を右から左へ動かすだけで儲けようとする、「あざとい」、「まっとうでない行為」に映りがちです。

 

 

しかし考えてみれば、

 

株式を売買することも、投資信託を買って売ることも、それを経験したことがない人から見れば、
どこか「あざとい」、「まっとうでない行為」に映るのではないでしょうか。

 

私たちは
金融という名の行為にはびこる、
「いかがわしいイメージ」を払拭する努力を、これからも続ける必要があるでしょう。

 

 

 

 

 

好むと好まざるに関わらず、
今日「金融」(Finance)は
複雑化した世の中において、

空気のような役割を担っているのです。

 

最後に、
「エデンの東」は父子の葛藤、
恋愛ドラマのみではありません。

第一次世界大戦前後のアメリカの世相を知ることが出来る、素晴らしい群像映画となっています。

(当時まだ黎明期だった自動車の、駆動の仕方の説明を受けるシーンも印象深いです)

 

 

 

エデンの東(1954年、アメリカ)
 監督:エリア・カザン
 原作:ジョン・スタインベック
 出演:ジェームズ・ディーン、レイモンド・マッセイ

カテゴリ:その他・雑記

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