その他・雑記, 世界投資的紀行

藤野英人さん『ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義』は、日本の経済通史の本です

2022年5月30日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

世の中に日本の歴史書は溢れていますが、

経済面から辿った
「日本金融史的な」書籍はごく限られています。

 

本書は近世来の各政権が
経済的に「どのような政策」を行ってきたか、

また隣の大国である中国、
あるいは欧米諸国と対峙する中で、

外国との関係が
日本の経済にどのような影響を与えてきたか・・・

それらを深く掘り下げながら論を進めています。

 

 

 

 

著者が藤野英人さんですから、
―「ひふみ投信」などを運用しているレオス・キャピタルワークスの代表の方ですから、―

『機会を広げて、利を追求する』という観点で、
日本の歴史を振り返っているのが特徴です。

 

 

 

書籍『ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義』を読めば、

 

1.歴史を動かしてきたのは政治のみではなく、
ヒトの活動(経済)であったことが分かります

 

 

2.日本人が過去、果敢にリスクを取って
海外に勇躍してきた姿が浮かび上がります

 

2に関連して、
著者の藤野さんは、

日本は歴代【ヤマヒコ政権】と【ウミヒコ政権】の間で幾度もスイングしてきたと喝破します。

 

・ヤマヒコの時代とは・・?

日本の中心は「東」であり、
田畑、道路など
インフラ整備を中心に経済運営を行う。

<鎌倉時代、江戸時代、戦後自民党時代など・・>

 

 

 

 

・ウミヒコの時代とは・・?

日本の中心は「西」にあり、
積極的に外国と貿易を行い、
経済成長に重きを置く。

<奈良時代、平家の時代、織豊時代、明治大正など・・>

 

 

わたしが「面白いなあ・・」と思ったのは、
日本という国は
お隣の「中国」の盛衰に合わせ、

中国が衰えるときは「ヤマヒコ政権」が、
中国が栄えるときは「ウミヒコ政権」が起こってきた、という分析です。

 

また、うんうんと頷いたのは「第2章」の
商業倫理について述べられたところ・・。

 

社会と関わり、
それを良い方向に変えるために
商売をする。

 

利益はそうした商売を
サステナブル(持続可能)にする。

 

 

江戸時代に生まれた商業倫理は、
このように要約できるでしょう。

 

士農工商で知られるように、
江戸時代はあからさまに
商業に対する「差別」がありました。

 

しかし、
そのような過酷な状況下で、

商売の意味を深く掘り下げ、
社会と共存するために「独自の規律」を確立したのが、実は『商人』なのですね。

 

 

 

 

本書は興味深いエピソードに溢れています。

 

〇 千葉県の外房と内房の経済遍歴のお話
(1940年体制の影響)
〇 中国貨幣の流入(通貨供給量増 ⇒ インフレ)
〇 官の締め付けと経済の歪み
・規制と中央集権がいかに人の活動を縛ってきたか?
・徳政令・政府による借金の踏み倒し
〇 太平洋戦争末期の株式市場の話
(生保などの機関投資家はすでに敗戦を予期していた?)
〇 日本と欧米の
資産運用会社・証券会社「成り立ちの違い」
〇 世界初の先物取引 大坂「堂島米会所」

 

 

日本人はおとなしくて従順、
石橋を叩いて渡るタイプで
リスクを取らないという「固定観念」を覆し、

遣唐使を20回も派遣した事実や、
倭寇の話(これは海賊ですが・・)や

山田長政の活躍、
織豊時代、江戸時代の豪商の話などを通じて、

 

日本人は、
外国との関わりの中で
多くの不確実性(リスク)に挑んできたと藤野さんは記します。

 

本書は、奈良時代から現代に至るまでの
「お金、経済の歴史」を辿る、
骨太の学術書ともいえるのです・・。

 

 

(フム。何度読み返しても面白い。)

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