リタイアメント・資産の取り崩し

『4%ルール』の父、ウィリアム・ベンゲンさん(資産の引き出し率の雛型を作った人)

2022年3月23日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

あなたはウィリアム・ベンゲンさん(William P.Bengen)ってご存じですか?

 

 

ベンゲンさんは米国のファイナンシャルプランナー(すでに引退)であり、

 

1994年に発表した論文「Determining withdrawal rates using historical data」
過去の歴史データを用いた引き出し率の決定』(PDF)

 

で有名な人です。

 

 

資産運用の出口戦略でいうところの
『4%ルール』の生みの親とされています。

 

上記論文はなんとウェブ上で誰でも読むことができます!

わたしも読みましたww

 

この論文はある種の温かみに溢れています。
なぜなら単に「研究」のために書かれた文章ではなく、

投資アドバイザーとして実際仕事に携わっていたベンゲンさんが、氏の顧客や他の投資アドバイザーを想定して書かれている文章であるためです。

 

当論文は
1926年から1976年までのデータを基に、
株式、債券を組み合わせたポートフォリオから、

3%、4%、5%、6%を毎年引き出した場合に
資産が何年持続するかを検証するという内容です。

 

論文の冒頭でベンゲン氏は
『仮定上のアドバイザー』を登場させ、

ふつうだったら
こんなふうにアドバイスするのではないでしょうか?と問い掛けています。

(さあ、ここからは「1994年当時」という状況を加味しながらお読みください。)

 

 

(イボットソンアソシエイツのデータから)
・米国株式の年率リターンは10.3%
・米国の中期国債(5-10年)の年率リターンを5.1%とする
株式60/債券40のポートフォリオで
リ・バランスを継続的に行ったとして年率リターン8.2%
物価上昇率を3%とすると
インフレ調整後のリターンを 5.1%と見ている

 

 

『仮定上のアドバイザー』は引き出しの初年度(年末)に、
「5%引き出しで良いでしょう」と言って
クライアントは初めての引き出しを行う
次年度以降は、
インフレ率に応じて引き出し率を上げる

 

(例えば、次年度は年3%のインフレだったら、
年末の引き出し率は5.15%となる)→ 5%×1.03

 

 

 

 

当初の数年は
ポートフォリオのリターンもインフレ率も想定内に収まり、順調に推移した・・
この前提を覆したのが、
思わぬイベント(株式市場の暴落と高インフレ)だった・・

 

 

論文では、
この『思わぬイベント』として

1929~31年の大恐慌
1937~41年の株価の下落
1973~74年の株価下落(プラス高インフレ)の三例を挙げています。

 

詰まるところ当論文は
これら『思わぬイベント』(暴落+高インフレ)が

退職者のポートフォリオのパフォーマンスに
どの程度の悪影響を及ぼすかの検証であり、

今後も、
これら好ましくないイベント(暴落+高インフレ)は、起こるという前提で語られているのが貴重なのです。

 

 

 

上記図表の説明です。

・タテ軸はポートフォリオが持続した年数。

・ヨコ軸はポートフォリオの取り崩しを始めた年です(1926年から1976年)
 ※ 実際の取り崩しは年末に実施)

 

上図は
『株式50/債券50のポートフォリオ』
引き出し率を初年度「4%」として、
(その後はインフレ率の分だけ引き出し率を上げる)

 

1926年から1976年までの
どの年で『引き出し』をスタートさせても、

ポートフォリオが枯渇するまでには
最低35年はかかっています。という図表なのです。

(※株式は米国株式、債券は米国の中期国債)

 

 

もっとも早くポートフォリオが尽きるのは?


1966年に引き出しを開始した場合です・・。

 

ココでわたしは個人的にう~んと唸ってしまいました。

 

 

世界大恐慌(1929年)の周辺ではないのですね・・。

 

また1973年から1974年にかけて、
株価の暴落(+高インフレ)が起こっていますが、

 

―ダウ平均は73年、74年の2年間で
50%近く下落するという惨状でしたが、―

 

 

でも、

 

同じポートフォリオ、同じ引き出し率で
ポートフォリオがもっとも早く枯渇するのは

1966年の引き出し開始のパターンなのです・・。

 

 

 

逆に1974年の引き出し開始なんて ↑
かえって優秀です・・。

(1926年~36年の引き出し開始も超優秀・・)

 

どうしてこんなことが起こるのか?
それは「引き出し(%)」とは
長い歳月をかけた継続的な作業であるためです。

 

 

 

「カンさん!万一暴落の年にリタイアして、
暴落の年に資産の取り崩しを始めることになったらどうします??」

 

という質問をよくいただくのですが、

 

ベンゲンさんが提唱する「率(%)」による取り崩しを堅持すれば、それは恐れるに足りないこと。

 

逆にです・・、マーケットが比較的好調なときに『引き出し』が始まり、わたしの印象では引き出しの第一フェーズ(最初の10年程度)辺りで、

『暴落』、もしくは『暴落』+『高インフレ』が起こってしまうほうが、資産の実質毀損率は高くなってしまうという印象です。

 

最後に(誤解がないように)、ウィリアム・ベンゲンさんはまだご存命ですよ。

 

最近は、YouTubeやポッドキャストなどに精力的に出演されています(^^)

 

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