金融機関にモノ申す

株式の売買委託手数料『ゼロ化』の先にあるもの

2021年6月20日


こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

『株式の売買委託手数料をゼロに』

この謳い文句は
書いてしまえばたったの14文字ですが、
実は画期的なことです。

米国では2019年に、
チャールズシュワブ、ロビンフッド、Eトレード、TDアメリトレードなどの主なオンライン証券会社が、株式の売買委託手数料「ゼロ」に踏み切りました。

 

アメリカではすでに「Xデー」を迎えているわけです。

 

いっぽう日本では今年4月に
SBI証券が25歳以下の顧客に限って、
株式の売買委託手数料をゼロにすることを発表。
(その後、複数のネット証券が追随しています)

日本でも2022年には「Xデー」を迎えることになりそうです。

 

株(かぶ)の売り買いの手数料をゼロに!
は、個人投資家にとって長年の夢でした。

 

 

少し米国の歴史を紐解いてみましょう。

今から100年前の株式市場は
お金持ちの人だけが出入りできる
「富裕層サロン」のような場所でした。

投資家は株式の売り買いをする際に、
証券会社に『売買委託手数料』を支払いますが、
これはずっと「固定制」でした。

 

たとえば100ドルの銘柄を1株購入し、
仮に手数料率が1.5%だったら、
1.5ドルをコストとして支払います。

(売る時も同様です)

1万ドル(100株分)買えば、
手数料は150ドルにもなるわけです。

 

以下の表は、
100年近くにわたる米国における
株式の売買手数料の「率(%)」の推移です。

 

画像元:QUARTZ

 

1980年の少し前からガクンと下がっていますが、実は1975年に、株式の売買委託手数料が自由化されたのです。

(解禁日がちょうど5月1日であったことから、
米国ではこの日を「メーデー」と呼んでいます)

 

それから20年余りが経ち、
インターネットの普及とともに、
Eトレードのような「オンライン証券」が勃興します。

リアル店舗で株の売り買いを依頼するより、
ネット上で株の取引ができたほうがコストは圧倒的に下がりますね。

2000年代に入ると、
株式市場はお金持ちだけが行うゲームの舞台ではなくなりました。

 

そして今、
株式の売買手数料「ゼロ」の時代を迎え、
実際、何がどんなふうに変わるのでしょうか?

 

 

すでにその兆候は見えています。

米国では20代、30代の若い投資家が
株取引アプリ(代表例は「ロビンフッド」)を用いて、
ミーム銘柄と称される個別株を盛んに取引しています。

何しろ、
株式市場への『入場料』がタダになったわけです。

 

間口が広がり、ハードルが下がって、ようやく株式市場は万人に開かれた = 民主化を達成した状態と云えるでしょう。

 

 

若手の、ビギナーの投資家は、
ヘッジファンドなど、
空売りを得意とする専業投資家との「対決」を通じて、
何か自分がドラマの主人公になったような気分になって、盛んに売買を行っています。

実際、米国では株式の出来高に占める
個人投資家の比率が上昇しているそうです。

日本でも今後、若年層の間で
株取引がブームになるのは間違いないでしょう。

 

「で、カンさん。何が言いたいの?
長期投資家にはあんまり影響はないような・・」

 

いいえ、影響は大いにあります。

最初は過度なトレードを標榜していた投資家も、
そのうち自分のスタイルを模索し始めることになるのでは・・。

つまり、

 

株式市場の『入場料』がタダに。
⇒ 多数の新規投資家が参入 ⇒ そのうち一定割合がファンドの世界へ ⇒ そのうちの一定割合がインデックス投資のフィールドへ

 

ということが、時間をかけながら起こると考えます。

 

 

売買委託手数料がゼロになることで、
株式という商品はようやくコモディティ化(汎用品化)するわけです。

そしてやがては、

投資家を
証券取引所へとつなぐ独占的地位を保持する「証券会社」も、
その仲介役としての使命は終えることでしょう。

なぜなら、取引所と投資家(売買者)を直につなぐことは技術的に可能であるためです(これこそが最後の「パンドラの箱」です)


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