経済よもやま話

映画『国家が破産する日』を観ました

2019年12月8日

こんにちは。
投資信託クリニック代表の カン・チュンド です。

きっかけは夢見父さんの以下ツイートから。

 

 


この映画は、
1997年に起きた韓国の『経済危機』を描いています。

冷めた目線で見ると
いくつか学べる【教訓】があります。

 

1.経済的危機は「好況」と隣り合わせ。

 

経済危機が起こるのは
「不況」のさいの果て、ではありません。

信用(クレジット)が肥大化するまさにその時、
つまり「景況感が良い方向で沸騰しているとき」に、
『危機』の芽が大きく育っているケースが多いのです。

 

 

2.国の対応は後手後手。

 

映画では「12月に大統領選があるから・・」

「本当のことを言えば国民がパニックになる」
「もうしばらく様子を見たほうがよいのでは。」

というセリフが出てきます

実際、韓国政府は1997年10月27日、
一度は経済危機説を否定しています。


結局のところ、

 

3.国(政府)はホントのことを言わない。
会社(上司)もホントのことを言ってくれない。

 

ここ、重要です。

 

経済がパニック的な状況に近づくと、
【真の情報】というものは、

とても小さな、いびつな場所に囲われてしまいます。

(要は)なかなか降りてこないのです。


上(うえ)はパニックを恐れ、
あるいは保身に走るため、

経済危機の際は、
国や会社に「一体どうなのですか?」
「大丈夫なんですか?」と聞いても(残念ながら)ムダなのです。

 

もうひとつ、

 

4.マスメディアも正しく正確な情報を流すとは限りません。

 






わたしは、
いちばん嘘をつかないのは「マーケット」だと思います。

 



映画の中では
危機を察した大手金融会社(ノンバンク?)に勤める若者が、
会社を辞めてファンドを立ち上げます。

いや、ファンドと云いますか
ユ・アイン演じるこの若者は、

今までの自分の顧客に、
『これから国が転覆するようなことが起こるから、一緒にお金儲けをしましょう』と呼び掛けます。

 

 

結果、付いてきた人は何人だと思いますか?

たったの2人でした。

 

 

 

1.まず若者が行ったのはドルを買うこと。

 

実際、韓国では短期間に急速なウォン安(ドル高)が進み、
ドルは(ウォンに対して)3倍程度になりました。

 

 

2.その後、若者は二人の顧客に対して
株式のオプション取引(売り)を勧めます。

 

いわゆる『プット・オプション』です。

 

プット・オプションとは?

「ある特定の日に
決められた価格で資産(株式)を売る権利」のこと。

 

 

おそらく、韓国総合株価指数 (KOSPI)のプット・オプションを購入したのでしょう。

株式市場は予想通り暴落し、
ここでも莫大な利益を上げます。

 

 

3.最後に不動産。

 

元手を大きく増やした若者は
二人の顧客とともに不動産屋を訪ね、
「最近、売り物件が多いでしょう?」とたずねます。

おそらく、ソウルのハンナム(漢南)あたりの
高級マンションなのでしょう。

「このマンションに出ている物件ぜんぶ買いますよ」
若者は言ってのけました。

人の裏道を歩く・・。
ここに、冷酷な投資の真髄が垣間見られます。


< 閑話休題。>

 



 

 

なお、映画では触れられていませんが、

経済危機時の韓国では
急激なウォン安が進みましたが、
強烈なインフレーションは起きませんでした。

以下、韓国の『長期インフレ率』の推移です。

 





画像元:statista


経済危機の只中、1998年はインフレ率7.51%と、
前年(97年)の4.44%に比べ多少上昇していますが、
翌99年にはインフレ率0.81%となり、逆にデフレに近づいています。



これは『ギリシャ危機時』も同様で、

 




画像元:Tim Duy’s Fed Watch

2011~12年にかけての危機の際、
ギリシャでは長期金利が高騰しますが、
物価はマイルドなままでした。

翌2013年には(逆に)インフレ率はマイナスに陥ってしまいます。
(これら現象は示唆に富みます。)


さて、映画に戻りましょう。

この映画のもう一つの見どころは
IMF(国際通貨基金)との攻防です。

史実として1997年11月21日、
韓国政府はIMFに金融支援を要請すると発表しています。

 

映画の中では
米国帰りの韓国の財務次官が、
にっちもさっちも行かない状況下で、

「IMF(国際通貨基金)からお金を借りましょう」と
さらりと言ってのけるのです。

そのほうが(国として)構造改革がやりやすくなると
割り切っているかのようです。
(その一方で財閥企業の幹部に経済危機の状況をリークしたりもします)

 

 




映画の主人公(韓国中央銀行のひとり)がIMFとの交渉中、
IMFの担当者に向かって放った「ひと言」が、
この映画のハイライトでしょう。

あなた方(IMF)が出している要求は
実はアメリカが後ろで手を引いているのでは?


IMFが韓国政府に対して要求したのは、

〇 人材の流動化(結果として非正規雇用の増加)、
〇 外資規制の緩和などです。

外資規制の緩和の柱は、
韓国企業における外国人の株式保有上限枠を
7%から50%まで引き上げるというものでした。

(アメリカの意思が働いていたと考えるのも頷けるでしょう。)

危機は、
いつも「忘れた頃」にやってきます。

グローバルに分散投資を行うことが
自国の虚弱に対して有効であることを、
私たちは常に忘れるべきではありません。


〇【ときに、日本の財政危機について考えてみる
〇【ときに、日本の財政危機について考えてみる その2)】
〇【ときに、日本の財政危機について考えてみる その3)】

(おまけ。)わたしは平日に観に行ったのですが、
この映画が上映されている
シネマート新宿の観客の方々を見ると、
60代以上の年配の方が多かったのが印象的でした。 

 

 

カテゴリ:経済よもやま話

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