過去500年の覇権国の変遷をおさらい(DeepSeekショックから学ぶ)
2025年1月28日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
歴史は
過去を振り返るための「思い出学問」ではありません。
歴史は
『今』を鳥の目で見るための「進行形の知見」です。
資本市場の本質を見極めるためには、
長く大きな『視座』を持つ必要があります。
500年と聞くと
気が遠くなるような時間ですが、
間違いなく、
あなたもわたしもその年月の一瞬間に関与しているわけです。
時代の変遷の中で、
「大国」も移り変わってきました。
真の大国は
経済を牛耳る(基軸通貨含む)だけでなく、
軍事的にも他を圧倒する「覇権国」と呼ばれる国のことです。
16世紀後半には
オランダが覇権国としてその姿を見せ始めました。
オランダの富の源泉は、
造船力、海運力でした。
当時の「船」は
テクノロジーそのものです。
ざっくり言ってしまえば、
より早く、よりたくさん、より遠くへ運ぶことで、オランダは他国を圧倒したわけです。
ところが18世紀になると、
別のテクノロジーが出現しました。
蒸気機関です。
産業革命を先導したイギリスが新たな覇権国となり、ポンドが基軸通貨となりました。
その次に隆盛したのがアメリカです。
アメリカは重工業でのし上がり、
20世紀になって原油という富を次なる工業化に生かしました(自動車産業や石油化学産業です)。
その後、
米国における金融業、IT産業の隆盛はあなたもご存じの通りです。
(ドルが基軸通貨となってもう100年以上が経ちます)。
ブルームバーグの、
『中国のDeepSeek、その低コストAIモデルの全て―QuickTake』
という記事を読みました。
次の経済的覇権のカギを握るのがAI(人工知能)です。
上記記事から引用してみましょう。
米国と中国の技術覇権争いの要となるAI分野で中国が優位に立つことを阻止しようと、画像処理半導体(GPU)などのハイエンド技術の中国への輸出を禁止した。
上記の文章の主語は「米国」ですね。
アメリカは、
中国を(AI分野における競争相手として)脅威に感じているからこそ、上述のような「行動」に出たわけです。
歴史を振り返れば、覇権国は常に
「次なる覇権国候補」を警戒してきました。
そして、
その競争力を削ごうと努めてきたわけです。
オランダ(覇権国)の、
イギリスに対する態度がそうでしたし、
イギリス(覇権国)の
アメリカに対する姿勢もそうでした。
今、アメリカ(覇権国)は中国を警戒しています。
米中の『AI競争』はまだ始まったばかりで、今後どのような変遷を辿るのか、まだ誰にも分かりません。
(ましてや私はDeepSeekという生成AIモデルについて、詳細を知る者でもありません)
(かつて)栄華を極めた結果、
オランダの物価(人件費含む)はあまりにも高くなり過ぎ、対外的なコスト競争力を維持できなくなり、
同じ品質の商船・軍艦を
イギリスがより低コストで提供できるようになりました。
同様に、
かつて栄華を極めた結果、
イギリスの物価(人件費含む)は高くなり過ぎ、コスト競争力を維持できなくなり、
同じ品質の工業製品を
アメリカがより低コストで提供できるようになりました。
同様に今、
アメリカの物価(人件費含む)があまりにも高くなり過ぎ、コスト競争力を維持できなくなり、
中国がより低コストで提供できるようになった・・
オランダが長けた造船技術。
その材料は木であり、鉄です。
イギリスは蒸気機関で世界を席巻。
その材料は石炭です。
アメリカは石油という材料を縦横無尽に利用。
金融業の隆盛では文字通りマネーを材料としました。
上記の材料は実感を伴うモノですが、
AI(人工知能)産業の材料は「情報」です。
より大量に、
より網羅的に収集できるのは、
民主主義国家(米国)ではなく
専制国家(中国)であります。
権威主義国家では
人権やプライバシーといった理知的資産についてあまり配慮を行いません。したがって低コストで『情報』という材料を収集しやすいのです。
健全な競争が起こることで、
商品サービスのコストが下がり、多様性がより担保されることになる。
21世紀は、権威主義の国でも資本市場を席巻し得るのか・・。
最後に、
AI産業の『インフラ』を押さえることは、軍事分野でも優位に立つという事に他なりません。
カテゴリ:経済よもやま話