S&P500との連動を目指すファンドを作るなんて簡単でしょ?いいえ、それがそうでもなかったのです
2024年6月1日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
いつも辺境から生まれる。
たしかにそうかもしれません。
その業界の保守本流、
つまり「真ん中」あたりにいると、
商品・サービスの質やその妥当性について、
「これって本当にこのままでいいの?」
という、
根源的な問い掛けをする機会がなかなか芽生えません。
私たちは今(2024年)、
「S&P500との連動を目指すインデックスファンドを買います!」
などと
平気で言っていますが、
ほんの60年くらい前に
そんなことを言及しようものなら、
ちょっと変人扱いされたことでしょう。
1970年代までの
金融業界の常識は・・、
S&P500指数、ダウ平均、
(もちろん日経平均株価も含めて)
株価指数とは統計データであり、
マーケットの温度感を示す『物差し』としては有用だけれど、
そのためだけに在るものだよ。
と、みな思っていたのです。
当時は
インデックスファンドなんてありませんから、
個別株への投資にしろ、
投資信託を用いた投資にしろ、
すべての投資は等しく「アクティブ投資」でした。
言い方を換えてみましょう。
今となっては想像しにくいかもしれませんが、
S&P500という市場の物差し(数値)を
毎日違わず「算出」することと、
S&P500という市場平均を
「金融商品」として再現するということは、
まったく別次元の
まったく異なる行為であった。
ということなのです。
ココ、伝わっていますか?
日本でも面白いエピソードがありまして、
むかし証券会社の窓口に行って
なにも知らない投資初心者のおじさんが、
「あのー、日経平均株価をください」と言ったとか、言わなかったとか。
気持ちは分かりますね。
プロの目利き力で、他者を出す抜く投資スタイルしかない時代に、
例えば、
「S&P500と同じ結果を目指してファンドを組成してみようじゃないか!」という発想は、
かなり風変りなことだったのです。
(インデックスファンドのそもそもの『発想』は、金融業界から見れば辺境である「学術界」からやって来ました)
インデックス投資の源流には
いくつもの『支流』があります。
本日「例」として挙げるのは、
アメリカン・ナショナル・バンクの信託部門が
1973年に設定した受動的ファンドです。
当該ファンドは
S&P500指数との連動を目指しました。
『連動を目指す』とは、
要するに、
2.『市場平均の縮小コピー』を自ら作成し、
3.それを維持管理する。
ということです。
でも、
この困難さがあなたには伝わりますでしょうか?
時は?
まだ1973年です。
細かい話ですが、
アメリカにおいても、
『売買委託手数料』は自由化されていませんでした。
ということは?
株式を売り買いする際、
証券会社が指定する「固定の料率」で手数料を支払わないといけなかったわけです。
S&P500指数の構成銘柄(株式)を、
自ら買っていくだけでも手数料がかかり、
リ・バランスの際に
特定の銘柄を買い、特定の銘柄を売る際にも手数料を取られるわけです。
おまけに、
こんにちの膨大な出来高を誇る、
巨大な株式市場(米国)規模からは想像しにくいのですが、
S&P500の構成銘柄(株式)といえども、
中型株、小型株は
今よりうんと売買高が少なく、
ある程度のボリュームを
適正な株価で売買することが(今の常識感覚よりも)うんと難しかったのです。
結局、上述のアメリカン・ナショナル・バンクが設定した「マーケットファンド」も、S&P500の構成銘柄すべてを買い付けることはせず、大型株を中心に組入れ、『最適化法』によって、指数との連動を目指したのです。
いつの時代も道を切り開く者の苦労は絶えないもの・・。
ちなみに1973年当時、
ウォール街の大手金融機関の間では、この実験的「受動ファンド」(インデックスファンド)のことは、まったく話題にも上らなかったそうです。
カテゴリ:インデックス投資全般