金融機関にモノ申す

バンガードという会社はなぜブレないのか?

2023年9月3日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

愚直さという言葉は
英語では stupidity と訳されます。

Stupid って
バカという意味ですから、

馬鹿正直に
基本に忠実である姿 →『愚直さ』ということなのでしょう。

 

 

 

 

 

まだ会社が小さければ
創業者のDNAが社内に浸透し、

みなが会社の理念を共有して
一丸となって前に進みやすいと思います。

 

ところが、
会社の年齢が40、50歳になり、
従業員が5,000人、1万人になってくると

多くの社員は「寄らば大樹」的になって、
創業時のとんがった個性(DNA)が薄まってしまうものです。

 

そういう意味では
米国最大級の資産運用会社バンガードは
珍しい存在かもしれません。

(なんと云いますか、大きくなっても
『田舎臭さ』『実直さ』を兼ね備えているのです)

 

 

そんなバンガードの若き債券アナリストが登場するのが
ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語』という書籍の中の第8章です。

 

 

バンガードの債券アナリスト、
メイベル・ユーは
サブプライムローン債券のリスク評価を担当している際に、

 

格付け会社が
最上級の「AAA」の格付けを与え、

売り手の投資銀行が
「洗練された数学モデルが裏付けとなっている商品ですよ」と勧めてくる現実に疑問を抱き、その商品性に懸念を持ち始めました。

 

 

 

 

 

以下、本文から引用。

 

銀行がサブプライムローン債権を細かく分割して、
複雑な証券に含めることでサブプライムローンを「カモフラージュ」しているのではないかと疑った。

 

細部に異変を発見したのですね。

 

仮に、です。

組織の中で
個人が異端の意見を持つ、
あるいは(少数派として)正論を主張しようとするとき、

 

その過程でより大きな部署にそれを否定される、
潰されることはよくあることです。

(あなたの会社ではどうですか?)

 

 

(その意見が)
たとえ組織の上層部まで届いたとしても、

いつの間にか主張の色が薄まり、
結局「それも貴重なひとつの意見だ・・」
というひと言でうやむやに処理されてしまう・・

これもありがちでしょう。

 

 

組織(会社)が自己保身に向かわずに、
「誰のために私たちは存在するの?」を、
愚直に問い続けることって至難の業なのです。

 

 

上記のメイベル・ユー氏の話では、

バンガードは
ユー氏の主張を尊重して、
サブプライムローン債券を自社の商品に組み入れなかったのだそう。

 

 

はじめにお客様ありき!
(Clients first)と口で言うのは簡単です。

 

この資産運用業界でも、
誰もが理念とかポリシーとか、
お客様との約束とか、声高に言っています(笑)

 

 

この、理念として言っている言葉の価値が試されるのが、
株式市場が暴落してマーケットが非常事態に陥った時ではないでしょうか。

 

 

 

 

 

その時に、
会社の代表がどんなコメントを発せるのか?

 

発信の日時は、
2008年の10月6日です。

 

その昔、
マネックス証券のサイトで、
バンガード社が定期的に発信している運用コラムがありました。

 

 

 

 

まさにリーマン・ショックが起こった2008年9月に、米国バンガード・グループCEOに就任したばかりのビル・マクナブ氏が、上記コラムの中で次のように述べています。

 

先行き不透明なマーケットで
投資家はどのような行動をとるべきでしょうか?



もし長期的な視点でよく分散されたポートフォリオを持っているならば、
最も正しい投資行動は「何もしない」ということです。



今の状況下で
それが心情的にどれだけ難しいかは百も承知ですが、

マーケットが良い時も悪い時も変わらず、
投資プランに一貫性を持たせることが大切なのです。


当分の間、主要な株式や債券指数は
大きく上がったり下がったりを繰り返すかもしれません。

そして金融機関の経営危機や売却、
FRBによる救済措置などがこの先再び起こるかもしれません。


また、過去の経験則から考えると、
これらの異常事態は将来のある時点で落ち着くことが想定できます。

 

 

沈着冷静。
そして、顧客の心情に寄り添った言葉でもあります。

 

 

 

 

 

『ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語』では、
バンガードの文化と価値観を次のように紹介しています。

 

〇 短期間で儲かる投資計画は
決してうまくいかないのだから、

投資家とバンガード自身は
長期的な戦略を追求するべきである。

 

 

〇 つねに一般投資家に心を注ぐ。
顧客の資産運用の希望と夢が我々に託されていることは特権であるとともに、たいへんな責任であるとバンガードの社員は教育されている。

 

 

〇 バンガードの「乗組員」一人ひとりが、
組織とその顧客に貢献ができるという考え方が浸透している。

 

 

 

 

実はわたしは
2012年にバンガードの本社視察ツアーに参加しました。
その中で運用担当の人に質問をする機会がありました。

 

わたしは、

「どうして御社はフロンティア株式ETFを作らないのですか?」

と質問しました。

 

運用担当者は、
「それはバンガードが作るプロダクトではありません。」ときっぱり言われたのです。

 

・顧客が長く安心して保有できる投資対象か。
・組成コスト、ファンドの維持コストが高くなりすぎ、顧客の利益に反しないか。
・真にその投資対象、投資エリアを理解しているか。

「どれもYESと言い切れないからです。」と言われていました。

 

これこそが、バンガードの強さなのです。

 

 

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