銀行業は薄氷ビジネス?(田内学さんの著書「お金の向こうに人がいる」から学ぶ)
2023年3月20日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
ロイターより。
スイスの金融大手UBSは、経営不安が強まっていた同業クレディ・スイスを30億スイスフラン(32億3000万ドル)で買収すると発表した。
金融不安の拡大を恐れたスイス当局が主導して合意を取りまとめた。
なんとか週末で
ディールがまとまったようです。
「急がねばならなかった。」
これに尽きるでしょう。
急がなければ、
毎日毎日クレディ・スイスから預金流出が続いてしまうためです。
預金が減り続けるということは
「最後通告」を突き付けられることに他なりません。
(実は)銀行のビジネスは
かの地フィレンツェで
メディチ家が確立した「Banco」→ Bank(銀行)の姿から、基本変わっていません。
銀行とは、
預金者から「お金」を調達して、
その「お金」を融資したり自ら運用したりして、
利ザヤを稼ぐ商売です。
田内学さんの著書「お金の向こうに人がいる」のお年玉のエピソードを読めば、銀行業の本質がよーく分かります。
田内さんはこんな例え話を披露されています。
お母さんが「預かってくれる」と言うので
あなたは10万円を封筒に入れてお母さんに渡しました。
あなたのいないところで
お父さんが、
ママ、貸してくれないかな」と言います。
8万円を取り出し、
ただし「お金を貸す」わけだから利息はもらうわよ」と言います。
あなたには「10万円ちゃんと預かっているから」と言ってのけるのです)
つまり、
お母さん = 銀行業 です。
引き続き、田内学さんの著書から。
それぞれ100万円ずつ計1000万円分を
銀行に預金しています。
実際のところ、
この900万円のうち800万円を、
また、企業に融資(300万円分)したりしています。
ということは?
田内さんは著書の中で次のように仰います。
もし預金者が引き出しにきたら、
銀行はどうするつもりなのか?
現実的には、これが意外になんとかなる。
ほとんどの人はたまにしか引き出しに来ないし、
来たとしても引き出すのは一部だけだ。
なるほど・・。
私たちは銀行に
お金を預けているという「共同幻想」を抱いています。
ちゃんと「保管」してくれている。
いつでも引き出せるお金だから「安心」だ。という幻想です。
でも実際は?
上例で云えば、
銀行の金庫には100万円しかないわけです。
それでもふつうの状態であれば、何ら問題ありません。
銀行のほうは、
「お金を預からせてもらいます。」と
預金者に幻想を振りまきますが、
実は『お金を借りて』資金を調達しているため、
借りたお金を誰かに貸し付けたり、運用したりするのは勝手なのです。
田内さんはこう仰っています。
「預金」という言葉を考え出した人は天才だ。
もし「貸金」と呼んでいたら、返済してもらえるのか心配になるが、「預金」という言葉には安心感がある。
まさにその通りです。
こう考えますと、
「薄氷ビジネス」になることが分かります。
預金者が「自分のお金は安心なところに預けている。」という幻想をどれだけ強く抱いてくれるかに、銀行業の盛衰がかかっているわけです。
何かのきっかけで、
(たとえそれが根拠のない噂であろうが、)
・運用がうまく行っていないらしいよ
・最近預金残高がどんどん減っているらしいよ
という『疑心暗鬼』が育ってしまうと、
上例では、
銀行の金庫には100万円しかないわけですから、
繰り返しになりますが、
銀行は限りなく『アウト!』に近づきます。
規模は大きく異なりますが、
クレディ・スイスも、
シリコンバレー銀行も、
根っこのところは同じ病巣を抱えていたのです。
今日ご紹介した田内学さんの本は
「お年玉」の話だけでなく、
各所に優しい例え話が登場して、
とても読みやすい金融・経済の本となっています。
カテゴリ:金融機関にモノ申す