ひょっとするとS&P500指数にも『闇の部分』がある?
2022年12月2日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
ETF STREAMというサイトに、
『S&P 500 entry blighted by conflict of interest, research finds』
という記事が掲載されています。
さっそく引用してみましょう。
Findings of the report, titled Is Stock Index membership For Sale?,
“consistently” suggested a positive correlation between a company purchasing services – such as ratings – from benchmark provider S&P Global and having a higher chance of entering the renowned S&P 500 index.
「株価指数のメンバーシップは売り物なのか?」と題されたこの報告書では、
ベンチマークプロバイダーであるS&Pグローバルから『格付け』などのサービスを購入する企業と、
有名なS&P500指数に入る可能性がより高いという正の相関関係が「一貫して」示唆されています。
※注 すべての引用翻訳はDeepLによる。
「えっ、一体どういうこと?」と訝しく思われるかもしれません。
そもそも冒頭の「この報告書では」
の、報告書とは、
一体何なのか?
(どうも米国以外の居住者は全文は読めない模様。)
米国企業の立場に立って
「S&P 500」という株価指数を眺めてみませんか?
アメリカの大企業にとって
S&P 500に採用されるかどうかは、
『一流企業のメダル』を手に入れられるか否かというくらい、死活問題であるわけです。
もしもS&P 500に採用されれば、
あなたのような個人投資家向けのETF、インデックスファンドだけではなく、
世界中の金融機関(機関投資家)、年金基金、プライベート、セミプライベートの運用資金によって、自社の株式が「買い上げられる」ことは目に見えています。
その恩恵は計り知れないわけです・・。
それに、昨日の記事で
わたしはこう記しました。
S&P500は米国インデックス委員会によって維持されています(The S&P 500 is maintained by the U.S. Index Committee.)
委員会のメンバーは全員、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスのスタッフのうち、常勤の専門家です。委員会は毎月開催されます。
上記を換言すれば、
S&P500指数の銘柄選定(採用・除外)、銘柄の入れ替え等は、
この米国インデックス委員会(U.S. Index Committee)がすべての決定権を有しているということ。
細かい「スクリーニングの条件」(客観的事由)に加え、
もしも、ですが、
もしも、
関係主義的な事実に基づき、
裁量的な判断・決定のスペースが(委員会の中で)存在するとなると、
「スクリーニングの条件」(客観的条件)がまったく同じ、
『A社』と、
『C社』が仮に存在した場合に、
S&Pグローバルが提供する『格付けサービス』を購入している、
S&Pグローバルが提供する『格付けサービス』は購入していない。
もしも『A社』のほうを、
S&P500の銘柄に「採用する」ということが(万が一にでも起これば)、まさに『利益相反』が生じているということになってしまいます。
※ S&P グローバルは、
S&P グローバル・レーティングや
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスなど、4つの事業体の親会社にあたる(ウィキペディアより)
ETF STREAMの、
冒頭の記事タイトル、
「S&P 500のメンバーシップへの加入が、利益相反の影響を受けている。」は、まさにこの点を突いているわけです。
事実、
全米経済研究所(NBER)の報告書では、
S&Pの「格付けサービス」を購入しているのではないか、
(つまり、日本語的に云えば、忖度して「格付けサービス」を買っているのではないか)と、指摘しているのです。
引き続き、ETF STREAMの記事から引用してみましょう。
NBERは、株価指数への採用が検討されるほど大規模な企業と、S&Pグローバルから格付けサービスを購入する可能性との間に
「正の有意な」関係があることを確認した。
同様に、S&P 500の既存メンバー間の合併が発生した四半期には、インデックス非参加企業がS&Pの格付けを購入する可能性が高く、
インデックス(指数)に空きがある場合に、プロバイダーの製品を購入するインセンティブがより強くなることを示唆している。
S&P 500に採用される可能性がある企業が(まさに)忖度して、S&Pの格付けサービスを購入しているわけです。
続けて、ETF STREAMの記事は
全米経済研究所(NBER)の報告書の内容を引用します。
「S&P 500インデックスにどの企業を加えるかを決定する際、S&Pグローバルは公表された基準からしばしば逸脱した判断をしていると結論付けている」と調査は続けている。
「要するに、S&Pは、FTSE Russellよりもはるかに多くの企業をインデックスに加える決定において、公表された基準から逸脱しているように見えるのである。
もちろん記事は、
S&P側の反論も掲載しています。
NBERの調査結果に対し、S&P Global社の声明は、
調査結果には欠陥があり、S&P Dow Jones IndicesとS&P Global社は互いに完全に独立して運営されていると述べています。
問題の本質は『ふたつ』あると考えます。
数字のみによる「スクリーニング条件」(客観的事由)だけでなく、
つまり、委員会の思惑(グレーの部分)で決定が為されるスペースがあるからこそ、S&P 500に採用される可能性がある企業は、忖度をしてしまうわけです。
二つ目は、
そもそも指数を算出する
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスは、
指数への採用、除外などを通じて、
特定の企業に多大な経済的影響を与える「冷酷な存在」であるわけです。
→ 誰にも味方しない節度が求められるのが「指数算出会社」。
例えば企業の信用リスクを「レーティング」(格付け)して、
そのサービス内容を企業に提供し、企業から『報酬』を受け取ることが、
要は、
今日はたまたまS&P500を例に挙げましたが、
(これはMSCI社でも、FTSE Russell社でも、すべての指数算出会社に共通して云えることです)
「指数」は誰に対しても、
どんな事象についても、
冷徹で、かつシステマティックであるべきだとわたしは思います。
なぜなら、
インデックス投資家の投資は、
『指数』に依っているためです。
カテゴリ:指数のお話