アンパンマン的アメリカの終焉
2022年11月25日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
10年くらい前のお話です。
仕事で米国に行くことがあり、
サンディエゴからロスまでアムトラック鉄道に乗って、
ロスのダウンタウンから
LAXエアポートまで「地下鉄」を利用しました。
ロスは基本的に車社会です。
ですので、
地下鉄が走っている地区というのは正直なところ、
車を持つ人が少ない
低所得者層が住むエリアとなります。
(治安はあまりよくありません・・)
そのロスの地下鉄に乗ってみた感想は?
(ちょうど同じ年にインドにも旅行したのですが、インドの地下鉄にはコンセントも付いてました!)
今、お話したのはあくまで一例ですが、
少なくともモノ(ハード)に関しては、
航空機など一部の特殊なハードを除いて、
アメリカの「優位性」は消滅してしまっています。
言い方を換えると・・、
モノ(ハード)に関しては
世界のレベルの差が小さくなっているわけです。
先進諸国のほうが、
インフラ関係のハードの老朽化は進んでいるとも云えます。
少し時間を遡ってみましょう。
アメリカはすでに1980年代に
「工業化社会」としての優位性はなくなりました。
「誰がそんなに追い上げたの?」
もちろん、日本や西ドイツです。
1981年に登場したレーガン大統領は、
「アメリカの競争力をいかに復活させるか」というテーゼを掲げ、特別委員会を設けて専門家に研究をさせました。
そして10数年後、
『IT産業・金融産業』という、
「脱工業化」の主力産業を花開かせることになります。
(1989年には「冷戦終結」という幸運にも恵まれました。)
米国は見事に
「工業化社会」から「脱工業化社会」に移行を遂げたのです。
IT産業を基幹産業に据えており、
その需要を世界中で最大化させることに全力投球しています。
たとえば、
わたしは毎日iPad(アップル)を触っており、
Gmail(グーグル)でメールをチェックし、
アマゾンでドリップコーヒーを注文し、
Kindle(アマゾン)で書籍まで出版しています。
ついでに云えば、
VTIの米国ETFを毎月積立投資しているあなたは、その信託報酬をアメリカの会社(バンガード)に毎年支払っているわけです。
もう、アメリカ漬けです。
しかし、次の世代となればどうでしょう。
電気自動車(自動運転車含む)、宇宙開発、
AI(人工知能)、バイオテクノロジーなど、
さらに高度な技術革新を伴ったサービスインフラが隆盛を迎えるとき、果たしてアメリカは今と同様の『比較優位性』を保てているのでしょうか?
わたしはNO、だと思います。
栄華を極めた結果、
アメリカの物価(人件費を含む)はあまりにも高くなり過ぎ、他国に対して『コスト競争力』を維持することが出来なくなってきています。
同じ品質の、次世代型のインフラを、
中国やインドやその他の国が
より低コストで(やがて)提供するようになる・・、
時計を100年前に巻き戻せば・・・、
栄華を極めた結果、
イギリスの物価(人件費を含む)はあまりにも高くなり過ぎ、対外的なコスト競争力を維持できなくなってきています。
同じ品質の、次世代型のインフラを、
アメリカがより低コストで提供するようになる。
という文章に変わりますね。
以下、清水亮さんが書かれた文章です。
わたしにとっては、
今年読んだコラムの中でもっとも衝撃を受けたひとつとなりました。
・・(ちょっと長いですが、)ぜひあとで読んでくださいね(^^)
上記コラムをお読みいただくと、
米国の巨大テック企業が市場を寡占した結果、未曽有の利益を稼ぎ出し、そして高度な人材を確保するために人件費が高騰し、
その結果、ベイエリアの家賃を含む物価全般が異様に上がってしまい、ホームレスが街に溢れるという、ディストピアのような光景が見えてくるはずです。
ご承知の通り、
米国のベイエリア(シリコンバレー)で働くエンジニアのうち、中国人、インド人などが占める割合は高いです。
彼ら/彼女らの一定割合は本国に帰って、
次のステージである「宇宙開発」「人工知能」や「バイオテクノロジー」、あるいはそれらの融合を組した技術革新に邁進していくことでしょう。
覇権国としてのアメリカは明らかにピークを迎えています。
レイ・ダリオ氏はその著書『変わりゆく世界秩序:帝国の興亡と変化への対処策』の中で、
「Principles for Dealing with the Changing World Order:
Why Nations Succeed and Fail」
覇権国のピークアウトの『特徴』をいくつか挙げています。
2.モノ・サービスの価格、人件費が高騰して「サービス競争力」がおびやかされる
3.自国(覇権国)とライバル国(次の覇権を狙う国々)との間の争いが激しくなる
すでにアメリカは1~3のすべてを満たしていると云えるでしょう。
これまで寛容で、
外に向かって開かれた社会を現出してきた米国は、
有形無形のノウハウを、ヒト、国に惜しげもなく提供し続けてきました。
まるで・・・、
アンパンマンのようです。
アンパンマンは自分の顔をちぎって、
お腹がすいている人たちにアンパンを与える存在。
第2次世界大戦後の世界は、
(少し乱暴に言うと、)
アメリカがアンパンマン的に、
自ら保有する資源、ノウハウを、
他国に分け与えてきた歴史といえるのではないでしょうか。
アンパンマン的に
自分のモノを与え続けても大丈夫なくらい、
自身の経済力が半端なく『巨大』であったのです。
しかし、
今後徐々にアメリカの「優位性」は失われ、
アメリカがアンパンマン的に振舞うことは難しくなっていくでしょう。
かつてのイギリスがアンパンマンの役割を終え、
オランダがアンパンの役割を終え、
スペインが終え、
オスマントルコや
ペルシャ帝国やローマ帝国が、その役割を終えたのと同じなのです。
栄枯盛衰・・
カテゴリ:経済よもやま話