世界投資的紀行

忘れる能力があるから、人は長期投資できるのです

2022年5月3日

こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。

80億人近く人間がいれば、
さまざまな特性を持った人がいるものです。

 

普通に暮らすフツーの生活者が、

仮に物心ついてからの日々を、
その毎日のすべてを、

『克明に覚えています!』と言ったら、
あなたはどうリアクションされますか?

 

実際、そういう人がいるのです。

60 Minutes Australia
People who remember every second of their life

 

 

この番組の↑冒頭に出てくる女性は、
アメリカのテレビドラマに出演してきた女優さんなのですが、

 

彼女は人生のすべての「日」を覚えているのだそう。

 

 

1970年代、
『TAXI』というテレビドラマに彼女は出演していました。

60 Minutes Australiaの番組内で
キャスターの人が、

では『TAXI』の1978年、4回目に放送された回の・・

と言い始めた途端、

「ああ、あの日わたしはブルーのドレスを着ていたわ」と答えられたのです。

 

そして、
相手役の子どもの台詞も
自分の台詞も、

スラスラと言ってのけたのです。

 

 

 

 

1983年の11月7日は「何曜日だった?」
もちろんこの種の質問にも答えられます。

その日1日は
ニュースとしてはこんなことがあって、
自分的にはこういう1日だったということも、

記憶の引き出しから
取り出すことが出来るのだそう・・

 

スゴイですね。

 

すべての日を克明に覚えているって一体どんな心持ちなのでしょう。

 

 

 

 

その時、
もしもこの人が、
「投資を行っていたら・・」とわたしは夢想しました。

 

彼女が仮に
主要な指標を毎日チェックするまめなタイプなら、

 

彼女は本当に

・自分が保有するファンドの価格も
・アメリカのダウ平均の動きも
・米国の長期金利の数字も

すべての毎日変わる「数字」を
巨大な脳内Excel表のように記憶しているのでしょう。

(もちろん細々としたマーケットイベントも全部覚えてしまっているわけです)

 

これは、
投資のリターンに影響するのでしょうか?

 

 

(しないと思います。)

 

 

 

 

なぜなら記憶とは、
過去に自身が経験したコンテンツの集積であり、

投資とは、
未来に起こる事象を期して、
今リスクマネーを供することです。

 

向いている方向が逆なのです。

 

 

 

 

むしろ、
マーケットの過去の数字をいちいち脳内に記憶してしまうと、「数字」の集積が邪魔をして、俯瞰的な見方がしにくくなるのでは?

市場の特徴やトレンドのようなものが掴みにくくなるのではないでしょうか。

 

例えば私たちは
先週『市場』で起こった細々したことを、すでに忘れています。

12年前のことなど、もっと忘れています。

 

 

忘れることで『投資家』は、
過去のしがらみからある程度自由になり、未来に目を向けるように、具体的には未来の変化に興味を募らせるようになります。

 

忘却とは、前進のためのエンジンなのです。

 

特に長期投資家は、日々の動きを観察するというより、ざっくりした大きな波の傾向とその先に起こることに興味を向ける人です。

(仮に過去のデータが必要になれば、ネットから引っ張ってくればよいわけで。)

 

そう考えると、
過去がすべて記憶され、鮮やかに蘇るというのはちょっと気の毒にすら思えます。

 

 

では、一体どんな『過去』なら必要なのでしょう?

 

 

 

 

あなたが経験したことではなく、
歴史が大局として捉えた過去です。

これは勉強になります。
なぜなら未来をより鮮やかに照らす「灯」になるからです。

 

 

レイ・ダリオ氏の、
直近500年の『覇権国』の勃興、頂点、衰亡を描く、含蓄たっぷりの動画などいかがですか。

「Principles for Dealing with the Changing World Order」

 

 

わたしはダリオ氏は当代きっての歴史家だと思います。

このような過去の検証こそ、投資家の血となり肉となるのです。

 

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