どうしてバンガードはブレないのか?
2021年2月24日
こんにちは。
投資信託クリニックの カン・チュンド です。
あなたは、愚直さを貫くことってできますか?
まだ会社が小さいときは
創業者のDNAが社内に浸透し、
みなが会社の理念を共有して一丸となって前に進む!
みたいなことはしやすいと思います。
ところが、
会社の年が40、50歳になり、
従業員が5,000人、1万人になってくると
多くの社員は「寄らば大樹」的になって、
どうしても、創業時のとんがった個性(DNA)が薄まってしまうもの・・。
そういう意味では
米国最大級の資産運用会社バンガードは特異です。
(なんと云いますか、大きくなっても
『田舎臭さ』『実直さ』を兼ね備えているのです)
バンガード社のビジネスの理想とは?
【はじめにお客様ありき!(Clients first)】
この理想を
「私たちってスゴイことやっています!」と、
キラキラ誇示するように実践するのではなく、
営業日誌に書くように
自然に淡々とこなしている・・(まさに驚き!)
そんなバンガードの若き債券アナリストが登場するのが
『ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語』という書籍、その中の第8章です。
バンガードの債券アナリスト、
メイベル・ユーは
サブプライムローン債券のリスク評価を担当している際に、
売り手の投資銀行が「洗練された数学モデルが裏付けとなっている商品ですよ」と勧めてくる現実に疑問を抱き、その商品性に懸念を持ち始めたのです。
以下、本文から引用。
銀行がサブプライムローン債権を細かく分割して、
複雑な証券に含めることでサブプライムローンを「カモフラージュ」しているのではないかと疑った。
あなたの会社ではどうでしょう?
仮に組織の中で
個人が異端の意見を持つ、
あるいは(少数派として)正論を主張しようとするとき、
その過程でより大きな部署にそれを否定される、
潰されることはよくあること。
仮に組織の上層部までそれが届いたとしても、
いつの間にか主張の色が薄まり、結局「それも貴重なひとつの意見だ・・」というひと言でうやむやに処理されてしまう・・。
組織が自己保身に向かわずに、
「誰のために私たちは居るの・・?」を、愚直に問い続けることって至難の業なのです。
上記のメイベル・ユー氏の例ですが
結局バンガードはユー氏の主張を尊重して、
サブプライムローン債券を自社の商品に組み入れなかったのだそう。
【はじめにお客様ありき!(Clients first)】は
ビジネスの現場にいる者にとって、古くて新しい「課題」なのです。
『ジャッジメントコール 決断をめぐる12の物語』では、
バンガードの【文化と価値観】を次のように紹介しています。
決してうまくいかないのだから、
投資家とバンガード自身は
長期的な戦略を追求するべきである。
顧客の資産運用の希望と夢が我々に託されていることは特権であるとともに、たいへんな責任であるとバンガードの社員は教育されている。
組織とその顧客に貢献ができるという考え方が浸透している。
自分たちが完全に理解していない金融商品に
投資するべきでないと強く言われている。
この↑最後の文章、よく分かります。
実はわたしは
2012年にバンガードの本社視察ツアーに参加しました。
その中で運用担当の人に質問をする機会がありました。
わたしの質問は?
運用担当者は、
「それはバンガードが作るプロダクトではありません。」ときっぱり言ったのです。
・顧客が長く安心して保有できる投資対象か。
・組成コスト、ファンドの維持コストが高くなりすぎ、顧客の利益に反しないか。
・真にその投資対象、投資エリアを理解しているか。
「どれもYESと言い切れないからです。」と言われました。
おそらく、他の運用担当者に聞いても同じような答えが返ってきたはず・・。
これがバンガードの強さなのです。
(余談ですが、わたしが金・貴金属をはじめとした商品(コモディティ)を持たないのは、バンガードがコモディティのラインナップを持たないためです。)
正しい道を歩んでいるというより、
『正しくない道』が明快であり、みながそれを共有している。そんな印象を受けました。
画像元:Vanguard
上記↑キャッチコピーは文字通り、
(バンガードの)オーナーなのです。
顧客はファンドを保有することで、バンガードの所有者にもなっている。
これこそが、バンガードの理念が揺らがない『秘密』なのです。
カテゴリ:金融機関にモノ申す